

詩人のAさんは定年を迎える歳になり、父親から受け継いだ会社を売却しました。「これからは時間ができます」と彼から聞いていたため、私の任された公益法人で催している茶話会にお誘いし、彼は参加する皆さんと穏やかな語らいの時間を過ごしています。
思い返せばAさんと出会ったのは、70歳を前に病で旅立たれた詩人のSさんの紹介で、二人が私の主宰する朗読会に来てくれた時でした。
数年後に再会したのは、生まれたばかりの私の息子がダウン症児であると分かった時期で、挨拶をするとAさんは「私の息子は自閉症なのです」と一言、私に打ち明けました。
私を見つめる彼の、言葉にならないまなざしを、今もはっきりと覚えています。その瞳は、奥様と共に歩んできた、息子さんへの愛と葛藤を物語っていました。
それから年月を経て、Sさんの追悼会をきっかけに、現在も交流は深まり、私の茶話会にも頻繁に足を運び、いろいろと話すうちに彼は詩を書くばかりではなく、写真家の一面もあることを知ったのです。私は自分の法人の場で「詩と写真の展示会をしませんか?」と提案すると快諾して下さり、この4月にその企画が実現しました。
展示会の前日に、彼と相談しながら会場を設営。自宅でくつろぐ猫がこちらを見つめる写真や、素直に自らを咲かせる花の写真、奥様の後ろ姿を撮った写真等と、自作の詩のパネルを一つずつ壁に飾ると、素敵な空間が出来上がりました。
無事に展示会は開催され、訪れるお客さまがゆっくりと作品を味わい、すでに天に召された、懐かしい飼い猫の思い出を私に語る方もいました。
Aさんの内面の優しさを表した写真や詩が、観る人々と豊かな関わりを紡いでいる様子が感じられる展示となったのでした。