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豊かさ

岸本 景子

今日の心の糧イメージ

 私は、生まれ育った街のことが嫌いでした。

 パニック障害を患い、学校にも行けず家にこもる日々が続いていたときのこと。外では「あそこの家の娘さん、学校に行ってないんだって」と井戸端会議に花が咲く近所の人たち。私は深く布団をかぶり、その時間をやり過ごすことに必死でした。「早くこんな街を出て行ってやる」そう心に決めていました。

 二十代で地元を出て、しばらく帰らないときがありました。時が流れて、映画を撮るようになり、ご縁がつながって大人になり初めて地元で上映会を開くことになりました。

 告知も兼ねて多くの方と出会うなかで、改めて知る街のこと。歴史やひと。まちなみ。知れば知るほど次第に世界が広がっていくような気がしました。

 客観的に見ると、何もない街です。
 便利な大型ショッピングセンターも、有名なカフェも、映画館も、人が大勢集まる場所も何もありません。

 ただ、ないものにばかり気を取られてしまうと、本当に何もないように見えてきますが、ここから見える夕陽がきれい。ここに行けばこの人に会える。などなど、知っていくにつれて視点が変わり、街に厚みが生まれていくように感じました。

 これは街だけでなく、私たちの心のゆたかさにもつながるような気がします。本来、聖書にある通り「わたしの目に、あなたは価高く、貴い」(イザヤ 43・4)はずなのに、SNSなどによって人と比べてしまうことが増える中で、金銭的なものや名誉など、ないものにばかり目が向いて、心は満たされず、みじめな気持ちに支配されてしまいます。

 しかし、豊かさを測る尺度というのは、人それぞれ違います。

 なんでもないことの積み重ねが、きっと〝ゆたかさ〟につながっているのだと、そう信じています。