

表現の世界では、「豊かさ」というのは、極めて重要な指標です。映画や小説、あるいは建築、恐らく美術の世界でも、作品がいかに豊かであるかということを作り手は大事に創作します。それは「世界が豊かである」という前提に立ち、作品がその「現れ」たらんとしているからだと思います。
自分の
しかし、それだけではありません。映画の最小単位であるただひとつのショット、すなわちワンカットを、どのように撮るか、というところにこそ作り手の態度は現れます。
ストーリーを完璧に表現するために、ワンカットを隅々までコントロールすることも悪くはありません。しかし僕の場合はいつからか、これから撮影されることが自分自身やチーム全体によって把握され過ぎないことを望むようになりました。そしてできるだけシンプルに、誤解を恐れずに言えば、できるだけ簡単に、あっという間に撮られることを望むようになりました。
それはそのカットの中に、偶然が芽吹き、予想だにしなかった表情や、風や光が、舞い込んでくる余地を残したいと思うようになったからです。
世界の豊かさを締め出さないために、貧しくなることを大切にしているのです。
豊かさとはきっと人智を超えたところにあり、目の前のものをありのまま受け入れようとするとき、初めて捉えることができるのではないでしょうか。
そして、その準備ができたとき、心の豊かさは在るのかもしれません。