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大きな壁

片柳 弘史 神父

今日の心の糧イメージ

 「心を落ち着ける祈り」として、世界中でよく知られている祈りがある。

 「神さま、自分の力でなんとかなることについては、それを成し遂げる勇気を。どうにもならないことについては、受け入れる落ち着きを。そして、その二つを見分けるための知恵をお与えください」という祈りだ。

 世の中には、自分の力でどうにもならないことと、どうにかなることの二種類がある。それがこの祈りの基本的な考え方だ。どうにもならないと分かっていながら、それでも何とかしようと小細工を弄しても、ろくなことにはならない。そんな無駄なことをするより、いま目の前にある状況を、落ち着いて受け入れなさいとこの祈りは勧める。

 だが、そのまま何もするなということではない。どうにもならない状況の中でも、自分にできることが必ず何かあるはずだからだ。たとえば、相手が自分を嫌いになったというような場合、どんなに小細工を弄しても、相手の気持ちを変えることは難しい。しかし、なぜ相手に嫌われたのかという理由を考え、反省して自分を変えていくことはできる。自分中心の態度が嫌われたのだとすれば、相手の気持ちを思いやれる人間に少しずつ変われるよう努力すればいい。相手を変えることはできなくても、自分を変えることはできるのだ。

 どうにもならないような状況の中でも、祈るような気持ちで探し続ければ、できることは必ず見つかる。たとえそれが小さなことであっても、積み重ねていけば、やがて状況は変わり始めるだろう。自分の力でどうにもならないことは受け入れ、自分の力でどうにかなることだけに集中する。それを続けていれば、どんな大きな試練でも、必ず乗り越えることができるのだ。