なかえよしを作・上野紀子の絵による『りんごがたべたいねずみくん』は家族のお気に入りの絵本です。鼠くんがお腹をすかせて木に実る八つの林檎を見上げています。それも一つ一つ姿を消してゆきます。鳥が飛んできて初めに運び去ります。次に猿が木に登り、象が鼻をのばし、キリンがその首で、カンガルーがジャンプ、そしてサイが木に突進し揺らして、と。それぞれがご褒美をもち去るたびに、鼠くんは真似て林檎をとろうとしますが叶いません。終いにアシカがもぞもぞと近づきこの悲しいお話に耳を傾けます。アシカもまた彼らのようなスキルに欠けています。そこで思いつきます。アシカは鼠をボールのように放り上げると、木から二つの林檎を手に入れました。
私たちはみな人生で困難に出会います。鼠くんのように空しく無力に感じます。
何を求めているのかわからずに途方に暮れることもあります。
木の下ではなく、壁の裏側に佇むならば、何もよいものを見ることができません。希望を懐く勇気をどうやって奮い起こすことができましょう。
答えは一つとは限りませんが、詩篇作家は希望への道として歎きをさし出します。詩編の十三番はこう始まります。「いつまで、主よ わたしを忘れておられるのか。いつまで、御顔をわたしから隠しておられるのか」(13・2)。この絶望の言葉が続き、ある時急に変調がおこります。作家は次の言葉で終えます。「わたしの心は御救いに喜び躍り 主に向かって歌います。主はわたしに報いてくださった」(13・6)と。
作家を変容させたものは何か。おそらく悲しみや不満を正直に打ち明けることで、その前にそびえる壁に裂け目をつくることができたのでしょう。そこから光が射しこみ、よきものを見ることができたのです。