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大きな壁

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

 知人のお子さんが、生後間もなく手術を受けられた。身体の中には、胸と腹部の間に横隔膜という膜のような筋肉があるが、そこに空いてしまった穴をふさぐ手術だったそうだ。幸いに手術は成功し、すっかり健康体になられたが、赤ちゃんの小さな臓器の手術には、さぞ繊細な技術が必要だったろうと思う。

 横隔膜は、肺を守り呼吸を助ける大事な役割を果たしている。肺を支え動かす、しなやかな壁のような存在だろうか。赤ちゃんの身体の中の小さな壁が、日々懸命に働いて赤ちゃんを笑わせたり、すやすや眠らせたりしているのだと思うと、私まで気持ちが明るくなるようだ。

 私も見えない大きな壁に寄りかかっている時がある。努力が報われず、虚しくなった時や、行き詰まって気持ちが沈んだ時など、ただぼんやりと座っている自分に気づく。今、壁に寄りかかっているのだなあと思う。

 壁は何も話さなくても、ただそこにいてくれるだけで充分だ。寂しい時は、もたれて座り陽にあたる。しばらくすると背中が暖かくなってくるから、それが壁の言葉なのかもしれない。

 詩篇46の2節には、「神は我らの逃れ場、我らの力。苦難の時の我らの助け。」という言葉があり、神ご自身が逃れ場であると示されている。逃れ場はヘブライ語で「マハセ」といい、その中の「ハセ」には、人が神に信頼を置くという意味がある。

 これに倣えば、私の大きな壁は、休み場と言えそうだ。

 休ませてもらったら立ち上がろう。身体の中では、小さな壁が休まず働いていてくれるのだ。そして大いなる逃れ場に見守られていることを思い出し、静かな勇気が湧いてくるのを感じるのである。