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心を一つに

片柳 弘史 神父

今日の心の糧イメージ

 「恐れるな」。新型コロナウイルスが猛威を振るい始めたとき、フランシスコ教皇は世界に向かってそう語りかけた。「恐れるな」。それは聖書の中でイエス・キリストが弟子たちに繰り返し語った言葉でもある。恐れは、わたしたちの目を閉ざし、自分のことしか考えられないようにする。恐れは、「自分さえ助かればいい」という考え方や、自分の安全を脅かす相手に対する怒りや憎しみを生みだす。恐れが生み出すものは、キリストが説いた愛とはまったく逆のものばかりだ。キリストが、そしてフランシスコ教皇が、怯える人類に向かって「恐れるな」と語りかけたのは当然のことと言える。神がわたしたちに求めているのは、恐れることではなく、愛することなのだ。

 ウイルスとの戦いにおいて、「最も恐れるべきは恐怖心だ」と言ったリーダーもいる。みんなが恐怖心に駆られて自分のことしか考えられなくなれば、たちまち買い占めや暴動が発生するだろう。感染した人、感染の可能性がある人たちに対する差別も横行する。こうして、たちまち社会は分断され、崩壊してゆく。ウイルスとの戦いにおいて最も恐れるべきは、ウイルスよりも、むしろわたしたちの心に生まれる恐怖心なのだ。

 ウイルスと戦うために何が必要か。それは恐れないこと、互いに愛し合うことに他ならない。恐れに打ち勝ち、愛する人を守るため、社会を守るために自分を差し出すことによってのみ、わたしたちはウイルスに勝つことができる。

 ウイルスだけではない。あらゆる悪との戦いにおいて、同じことが言えるだろう。今こそ恐れに打ち勝つ勇気、愛する勇気を持ちたい。