故郷もわたしも、すっかり変わってしまった。だが、変わらないものも確かにある。目を閉じて心の中を探ってゆけば、わたしの中にまだあの時の少年が生きている。満々と水をたたえた初夏の田んぼが放つ青臭いにおいも、鼻に鮮明に残っているし、泥遊びをするときに感じた土のぬくもりも、しっかり手に残っている。少年の日のわたしをしっかり抱きとめ、大きな愛の中で育ててくれた故郷はいまもわたしの心の中に生きているのだ。すでに亡くなった父や祖母の思い出も、心の中に深く刻まれて、変わることがない。年老いた母が作ってくれる手料理の味も、子どもの頃と同じだ。すべてが変わってゆく中で、いつまでも決して変わらないもの。心の奥深くにあって、いつでも帰って行ける場所。それが故郷なのかもしれない。