そんな娘も結婚し、今は生まれた赤ちゃんを大切に育てている。こまやかに世話をする彼女の優しい手を見ると、自分のものではないバイオリンを、大事に扱っていた小学生の彼女が思い出される。
多くの人にとって、子どもの誕生は、人生における感動的な出来事の1つであるようだ。新しい命が、人間の力を越えた神秘的な領域から訪れて来る、そのことを実感する瞬間なのではないかと思う。それはどれほど大きな喜びだろう。昔の人の「子どもを授かる」という表現にも、喜びが宿っている。命とは天からの恵みであると考えていた人々の慎しみ深い感謝の心と、子どもというこよなき贈り物を受け取った幸福がこもった言葉であるように感じられる。
私たちの日々に、慎ましい感謝の心は生きているだろうか。厳しい社会の中で、私たちは何かを獲得しようと努力しすぎているのではないだろうか。努力することも、何かを勝ち取ることも悪いことではないが、自分がすでに与えられている者であることを知り、すぐそばにある恵みの1つ1つを数えていければ、日々はより幸福になるだろうという気がする。今生きている自分の命も、与えられた恵みであること、そしてこの地上に贈られた喜びであることを忘れないでいたいと思う。