▲をクリックすると音声で聞こえます。

旅立ち

黒岩 英臣

今日の心の糧イメージ

旅立ち、この言葉は私が若いころから馴染んできたある場所を、いつも思いださせてくれます。

その地域は、信州の軽井沢から北軽にかけてであり、また軽井沢の先にあたる、昔の名前で言えば沓掛と追分のことです。この近辺で私は、堀辰夫の「風立ちぬ」を読んだり、また立原道造の詩を知ったものでした。

ですが、あの高原一帯に我が家が別荘を持っていた訳ではありません。父は母に療養所生活をさせながら、我々兄弟を桐朋学園というかなりお金のかかる学校で、音楽一筋に勉強させてくれていたので、むしろ家計は火の車だったに違いありませんから。

私が軽井沢と出会ったいきさつは、私が小学生時代から桐朋学園の音楽教室の生徒であり、オーケストラのバイオリンのメンバーだったからなのです。そして、我々の師匠であり、厳格な指揮者であった齋藤先生の別荘が北軽井沢にあり、その関係で我々オーケストラが毎夏、そこの小学校を借りて合宿練習をする事になったからでした。

北軽に向けて旅立つと、当時は必ず碓氷峠をアブト式のレールと機関車で登り、軽井沢からは、北軽電鉄というトロッコ列車で行ったものです。脱線する度に、乗客である我々自らが「ヤッコラセ」と客車の車輪をレールに戻していたのですから、時代を感じますよねー。

あれからあっと言う間に数10年!今でもあちこち旅には出ます。それぞれ目的も楽しみもあるのですが、人生の夕闇に藍色が濃くなってゆく中で、心の中に一際明るさを増してきている東の星が見えます。

主のもとへ戻ろう!一番行きたい所、それはやはり私達を、信じられない程の真心から愛して下さる神の懐です。