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おおらかに

堀 妙子

今日の心の糧イメージ

父の楽しみは竹で編んだカゴを背負って山に出かけ、山菜やキノコを採ったりすることだった。

ある日、近所の友人と一緒に山に行き、ワラビやタラの芽をたくさん採って帰ってきたが、父と友人は山菜どころの話ではなかった。

なぜなら、山でワラビを採っているとき、ウサギのダンスを見たというのだ。父と友人がいた近くに切り株があって、そこにウサギが何匹かいて立ち上がっていたそうだ。長い耳と前足ならぬ両手も耳のそばにあげて、ダンスをしていたという。長い耳がゆらゆらと揺れて、それにあわせて両手も左右にふっていたそうだ。父と友人はそろって、「2人で見たのだからウソではない」と話したが、聞かされた人たちは2人を「ほら吹き」のように思い、相手にしなかった。

私はどうかというと、その話をすっかり信じていた。当時私は中学生だったが、父や友人がウサギのダンスを見ることができて幸せだと思った。もしかすると、ウサギたちは空中に何かがいて、偶然立ち上がっていたのかも知れないが、やはり私は、ウサギのダンスだったのだと信じている。

父はとてもユーモアのある人で、弟と私が幼い頃は、毎晩、父が話してくれる民話を聞きながら、眠りについた。父の民話は父自身も子どもの頃に、聞いた話なので、毎晩、自分流にアレンジして話してくれた。弟は「もう1回」などと言うので、父も大変だったと思う。

ウサギのダンスを見たという父、その父が、子ども時代に聞いた話を、今度は自分の子どもへの語り部となって話してくれた父の影響は、思わぬところで芽を出した。

私が『聖書』を読むようになったとき、今度は神さまが語り部になってくださったかのように、『聖書物語』をおおらかに楽しむことができるからである。