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おおらかに

三宮 麻由子

今日の心の糧イメージ

落語の小話に、大きなナスの話があります。「でかいナス」の夢を見た男が友達に大きさを説明するのですが、「暗闇にヘタを付けたような」というのです。

落語は近しいテーマの話で、ストレスも巧みに織り込んで作られていますが、重たい人情話であってもどこか大らかです。そのため、聞く人の心を癒してくれる感じがします。

でも、ちょっと待ってください。一見大らかに見える江戸時代は、本当にそんなに陽気でストレスがなく、みなが大きな気持でいられたのでしょうか。

江戸には、現代にない突き抜けたような明るさや度量の広さがあると私も思います。しかし、封建時代の生活には現代のような自由はなかったでしょう。男尊女卑が常識の時代、特に女性は我慢するのが当たり前という状況だったと想像します。自然破壊もあったし、飢饉や天変地異など命に関わる災いも多くありました。現代と種類こそ違え、ストレスは確実に存在したと思うのです。

ならばなぜ、あの特有の大らかさが実現したのでしょう。

答えの一つに「真の強さ」があるような気がしています。搾取にも不条理にもめげず、何が何でも楽しく生きる、すべてを笑い飛ばして見せる、そんな庶民の気概は、決意の領域にさえ感じます。

現代日本でストレスにさらされている私たちが大らかに生きるうえでも、日々を豊かに楽しむ決意は有効に働くかもしれません。

大空を見上げ、鳥の声に耳を澄ませ、地球規模の視野を意識すると、300年前の心の広さが取り戻せるかもしれません。機械に囲まれデジタル思考になった心を一瞬アナログに切り替えるだけでも、視点が変わり、それまで赦せなかった人の言動が理解できるかもしれません。

大らかであるには、それなりの決意が要ると、私は思うのです。