「わたしの目の代わりをしてくれればそれで充分です。わたしは人生の先輩として、様々なことを手取り足取りして教えるのです。ふたりでひとり。このことばが私たちふたりにはぴったりなんです」と、そのマッサージ師の女性は言った。ふたりでひとり、つまり2人3脚で前を向いて歩いていくと言ったのであった。
高校生の時、2人3脚の徒競走に出たことがある。2人並んで内側の足首をはちまきで結んで、3本足で走るのであるが、いち、にいちに、と2人の呼吸が合わないと前へ進めない。そのために、私と友人は放課後、一所懸命に練習し、当日、頑張って二位になったことを覚えている。
内側の足首を結んだ不自由を、2人の呼吸で補いあうのである。
マッサージ師の女性が亡くなるまでの20年余り、ふたりはお互いの足りない所を補いあって暮らしていた。その姿にじかに触れ得たことは今も私の心に美しい思い出として残っている。
夫婦の間でも然り、親子の間でも然り、隣近所の人たち、友人たちとのつきあいも然り、お互い自分にないものを持っている人と補い合って暮らせば、天の神さまは、その姿を天からごらんになってきっと喜ばれることだろう。