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2人3脚

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

2人3脚という競技は、今でも運動会で行われているようだ。並んだ2人が、隣り合ったお互いの右足と左足を結び、1本の足にして、一緒に走る競技である。2人なら、足は合計4本になるところを、敢えて3本にして走るのが特徴だ。

日常では「夫婦2人3脚で頑張って働いています」等と言うように、仲良く協力し合う例えとして使われている。だが、実際はどうだろう。2人3脚とはお互いが相手の重荷になってしまって、1人で走るより遅くなり、不自由で困難な状況なのではないだろうか。

これは人の生きづらさとよく似ている。私たちは皆、厄介な存在と結び合わされて、重荷に感じながらも切り離せず、苦労して生きているのではないだろうか。

幼い頃の私に結びつけられていたのは、「人を恐れる」影法師であった。その影法師はいつでも私について来て、「人は恐ろしいよ」「あなたは嫌われるに決まっている」「傷つけられる」「恥をかかされる」と耳元で囁くのである。この声を聞きながら、逃げ出そうとする影法師を引きずって、人々の前に出て行くのだから、それだけで疲れ果てる日々であった。成人してからも、この影法師は離れてくれなかったので、私は人生のかなり長い時間を、この重荷と格闘して過ごした。

だが、更に時間がすぎて、経験を積むと、人々が皆、それぞれの影法師と2人3脚で苦労していることが見えて来た。そしてほとんどの人が、私などよりずっと大きな重荷に苦しみながら、努力している人なのだということも、分かるようになって来た。その時に、初めて「人は恐ろしい化け物ではない」と思えるようになったのである。そして同時に、人に重荷が与えられているわけも、少しだけ分かったような気がしたのである。