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いつくしみの特別聖年

崔 友本枝

今日の心の糧イメージ

戦後、東京の言問橋のそばに「アリの街」と呼ばれる一帯がありました。廃品回収を仕事とする人々が、助け合いながら共に暮らしていたのです。

北原怜子さんは洗礼を受けた1年後、コンベンツアル修道会のゼノ修道士に教えられ、アリの街を訪問しました。クリスマス会を手伝ったのが最初でした。夏には、海を見たことがない子供たちのために箱根旅行の費用を捻出しようと慣れないリヤカーをひきました。旅行は子どもたちを大喜びさせました。

怜子さんはアリの街を愛し、身を粉にして奉仕しましたが、結核を患い、次第に重症になっていきました。医者は、怜子さんが最も愛するアリの街で暮らすように勧めました。3畳1間の粗末な部屋に移り住んだ彼女は、南京虫に刺されながらも幸せそうによく笑っていたそうです。床にふせって祈りながら1日を過ごし、夕方には仕事から帰る人々に美しい笑顔と共に温かな言葉をかけました。彼女の優しさには誰もが慰めを受けたと言います。

一方、アリの街は、当時、東京都から立ち退き命令が出ていました。怜子さんはリーダーと共に夜中まで嘆願書を清書し、支払い可能な土地を借りられるように自分の命とひきかえに祈りました。存続が確実になったと知った怜子さんは「これでいいのですね」と言い残し、3日後、28歳の若さで天に召されました。まるで神様の慈しみを伝えるために生まれてきたような一生でした。

教皇様は、昨年の12月8日からの1年間を「いつくしみの特別聖年」として定め、神の慈しみを周囲の人々に現すように勧めています。

北原怜子さんの自分を捨てきる愛を少しでも見習いたいものです。