それは遠藤周作の小説『沈黙』の舞台となった旧外海町にある枯松神社というところで、草に埋もれた石段を上がって木々の茂みの中へ入ってゆくと左手にある、巨大な岩です。そばにあった立て札には切支丹の弾圧を逃れた信徒達がこの岩陰に身を隠して祈り、信仰を守ったことが記されていました。私は緊張しながら岩の裏側へと回り、〈ここで祈っていたのか・・・〉と思いながら、命懸けで信仰を生きた当時の信徒の決死の覚悟を感じました。そして、〈そこまで貫く信仰とは何か?〉と考えずにはいられませんでした。祈りの岩から少し上がった場所には、土に埋もれた平たい石がいくつもあり、それは切支丹の墓でした。私は鞄から取り出した切支丹についての本を開き、当時の信徒達が唱えた祈りであるオラショを、心を込めて妻と唱えました。
その夜は、近くの黒崎修道院に泊まり、深夜、見えない多くの手にベッドから転がされたように感じた私は、そのまますっと床に着地して座り、目が覚めました。まるで切支丹の信徒達が私を取り囲んでくれているような心地がして、温かな安らぎに包まれました。
この不思議な経験以来、私の日々は導かれており、時に、自分の弱さに悩む出来事があっても〈信仰というものに、賭けようーー〉という心が強まっています。