そこから抜け出して幸せな気持ちで暮らす方法として、私は二つのことを心がけています。
ひとつは、静かな時間をもつこと。ただただ周囲の音を聞き、心も体もストップさせるのです。すると、さまざまな音が聞こえてきます。それに耳を委ねていると、心の視野がすうっと広がっていくのを感じるのです。
もう一つは、芸術に時間を使うこと。私は幸いピアノを永年弾いているので、帰りが遅い日のほかは、毎日必ず1時間以上を練習に使います。
俳句も心の治療薬になっています。自然を扱う俳句は、季語を使って五・七・五に納めるという厳しいルールで詠むので、頭の体操になるとともに、意識しなくても大きな視野で自然を見つめることができるのです。歳時記とノートと筆記具さえあれば、いつでもどこでも楽しめるのが利点です。
心が乾いたとき、私はこの二つをまず実行し、心の姿勢を正そうとします。いつも成功するわけではありませんが、少なくとも、心が乾いていることが自覚できるだけでも大きな一歩ではないでしょうか。
心の豊かさとは、肩に力を入れて獲得するのではなく、むしろ力を抜き、静かになり、思い切りオープンになったときにこそ到達できる境地なのではないかと思うのです。