クリスマスのおとずれ

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

 暦の上では待降節、御降誕を待つ季節が始まった。

 気がつけば、私たちの日常は、数えきれないほどの「待つ」ことで出来ている。順番を待ち、返事を待ち、毎朝、電車が来るのを待って通勤、通学する。そしてその一方で、待たせることに罪悪感を持ち、「お待たせしないように」全力を尽くして働く。

 だが、サービスを受ける時に起きる、些細な不手際や待ち時間を怒っている人を見ると、その人には事情もあるのだろうけれど、私たちは、待つ能力が衰えてきたのかもしれないと気づかされる。

 この地球上に、人間中心の社会を作り、効率の良さを追求してきて、私たちはずいぶん思い上がってしまったようだ。不便や不快、不本意なことを我慢せず、他人に当たり散らす前に、待つ心の深さを知り、謙虚でありたいと思う。

 12月になると、私の通っていた小学校では、アドベントカレンダーが作られて壁に貼られていた。クリスマスまでの日付が小窓になっていて、一日開けるごとにお祈りを捧げるのである。生徒が全員、熱心に祈ったわけでもなかったろうけれど、4週間をかけて、一日一日とクリスマスを待つ心は育てられたような気がする。

 待つとは静かな仕事だ。何もしないでいるように見えながら、深いところで心を働かせている。人の世にあって、多くの場合、待つとは、苦しみや悲しみと共に過ごすことかもしれない。災害、病気、愛する人の死。それらがやがて、時間によって別の形に変わること、傷が癒やされていくことを信じる、それも待つという仕事だ。

 見守っていて下さる大きな存在を知れば、小さな自分でも待ち続けることが出来る。そして、彼方に希望の明るい星を見つけることも、きっと。

クリスマスのおとずれ

湯川 千恵子

今日の心の糧イメージ

 アメリカの大学に留学中の2002年のクリスマス。11月中旬から毎日のように見知らぬ家庭婦人からクリスマスカードが届き、その年は57通にもなりました。カードには「外国からの留学生はクリスマスも一人で淋しく勉強も忙しいから、少しでも心温かいクリスマスを!」という優しい手紙と、厚手の靴下やスーパーの買い物券などが入っていて、連日、マイナス14~5度の厳寒なのに、私の心はホコホコと温められました。

  事の起こりは、「P・E・Oシスターフッド」という団体の会員婦人たちが、会報に載った「女子大学院留学生奨学金受給者」の一覧表に、還暦過ぎた日本人留学生の私の名を見て励まして下さったのです。ちなみにその年の受給者は172名で、国籍は75カ国。P・E・Oは博愛的教育団体の略です。

  この団体は1869年、7人の女子学生が「世界平和は女子教育と相互理解から」というスローガンを掲げて設立。その壮大な夢に共鳴した婦人たちの支部が全国に広がり、今や全米各州とカナダに千以上も出来ました。各支部は20人程の家庭婦人の集まりですが、バザーなどの収益金を本部に送り、奨学金の支援活動を続けているのです。

 私はアメリカで学んだ事を故国で生かすために、このユニークな奨学金の受給者となり、翌年五月に開かれたミシガン州全体の支部大会にゲストスピーカーとして招かれて、あのクリスマスカードを送って下さった方々に直接会って感謝を述べ、交流を深めることができました。

 「世界平和は女子教育と相互理解から」というスケールの大きい夢の実現を日常の中で支援している彼女たちの爽やかな笑顔が、毎日カードを受け取って暖められたあのクリスマスの感動と重なって今も忘れられません。


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