ゆっくりと父の身に起ったことを思い返してみると、人生の教訓にも思える。「中途半端なところで浮上しようとあがくな。底まで沈んで、何倍にも増したエネルギーで浮上しろ」と。また、罪に死んで新しい人間となる洗礼とも似ている。
しかし、この出来事の核心は受難から復活へと過ぎ越していくことのように思える。父を束縛するすべてのものをはぎ取って沈んでいき、苦悶する死のような瞬間から、魂の叫びと共に体を槍のようにして水面を目指し、途中で両手を十字架の横木のようにすると、新しい世界によみがえった。
父は、キリスト教にも神仏にも何の興味も持たない人だった。そんな父に起ったこの出来事は、神様のほうから父を網で捕まえようとしてくださったような気がする。
それから父は1年足らずでがんになった。父は自らの意志で洗礼を受けて天に旅立った。父の死後、この体験のメモを見つけた。読み返す度に、神様は大胆なお方だと驚嘆する。