「心の糧」は、以前ラジオで放送した内容を、朗読を聞きながら文章でお読み頂けるコーナーです。
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(月~土)毎日お話が変わります。

坪井木の実さんの朗読で今日のお話が(約5分間)お聞きになれます。

私が高校を卒業するまでの12年間で、特に心に残っているクラスは小学校の5・6年でした。私自身、クラスメイトから親しまれて学級委員に選ばれるなど、自分らしい2年間を過ごせました。この時の担任であった先生には一人ひとりの児童を想う心があり、それが皆にも伝わり信頼を深めていたからです。
始業式の日、5年生のクラスの教室に集まった皆の前で、先生は自己紹介をしました。
「私の下の名前はタイジと言います。これまでに出会った子どもたちは厳しい私を〈鬼退治〉と呼んでいます」と語った時、教室は緊張感のある雰囲気に包まれました。 ところが、いざ先生との日々が始まると滅多なことでは怒らなかったのですが、先生が本当に〈鬼退治〉になったのは6年生になったある日のことでした。
6年のクラスにはS君という知的障がいを持つ子がいて、数人が彼をからかうようになり、気がつくとクラス全員が彼に似た感情を持つようになっていたのです。
その日の「道徳」の授業が始まると、教室に入った先生はいつになく険しい表情で教壇の前に立ち、沈黙の後、口を開き、「最近S君をいじめている人がいるらしいが......誰だ!」。
一喝する声が響いた教室はしーんと静まり返りました。その後の説教で、私は息をのみました。なぜいじめをしてはいけないかを語る先生の顔をふと見上げると、その頬には涙が伝っていたからです。
それから嫌がらせはなくなり、S君に笑顔が戻りました。やがて迎えた卒業式。皆で歌った「道」という歌は、今も私の記憶の中に流れています。
あの日 〈鬼退治〉 先生が流した涙の意味を忘れずに、私たちは大人となり、皆それぞれの人生を歩いていることでしょう。