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担い手

服部 剛

今日の心の糧イメージ

 長く働いた介護職を辞めてから10年近くになります。
 私の理解者である妻が「詩人の道に専念してほしい」と強く願った言葉に背中を押され、私はある日の夕刻、すでに帰宅していた所長の机に辞表を置いたのでした。

 その頃同居していた義理の父は「人には勝負に出る時がある」と言い、私の決断に賛同してくれました。義理の父は、かつて外資系企業でプロジェクトリーダーとして大きな仕事を成した人だったため、その一言には励まされたものです。

 現在詩人の道を歩む私にとって、18年勤めた介護職の経験は深い人生勉強の年月になりました。人間関係にも悩みましたが、それ以上に心の糧になったのはたくさんのお年寄りの皆様との出会いでした。

 入浴・食事 ・トイレの介助等で時間に追われることも多く、不器用ながらもなんとか働きましたが、私が特に心掛けていたことがあります。
 それは、心を込めて一人ひとりのお年寄りに接すること、レクリエーションの時間に司会をして、皆様と楽しいひと時を共に過ごすことでした。

 職場を離れてから詩人の日々を歩む道の途上でふと、幾人もの懐かしい皆様の笑顔が心の中に浮かぶことがあります。すでに天寿を全うされ旅立たれた多くの方々が私のことを忘れず、密かな声援を今も贈ってくれている気がするのです。

 数々の大切な思い出はありますが、令和の時代を生きる私の脳裏に甦る、ある女性が語った一言が忘れられません。

 「戦時中の焼け野原を歩いた時、まさに地獄絵だった・・戦争は二度と繰り返してはいけないよ」――
 その言葉を思い出し、今ある何気ない日常の大切さを感謝して、私は世の担い手の小さな一人として平和を祈り、この日々を歩いてゆきます。