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ともに生きる

中野 健一郎 神父

今日の心の糧イメージ

 長崎のホームレス支援団体主催の講演会に、奥田知志さんという牧師さんが講話にいらしたことがありました。奥田さんは、北九州で、生活に困窮する方々への支援などを通して、人を「ひとりにしない」活動をしておられる方です。人間にとって、経済的困窮である「ハウスレス」は辛いことですが、もっと辛いのは、社会的孤立である「ホームレス」、即ち、人との関係や「絆」がなく、苦しい時に「助けて」と言えない孤独の中で生きることではないかと。

 講演は一部しかお聞きできませんでしたが、以前著書や報道に触れ、大いに共感を覚えた言葉があります。「絆は傷を含む」という言葉です。人は関係性が深い程、傷つけ合いもしますが、傷を通して、互いの絆の深さにも気づきます。

 この言葉の原点には、奥田さんの体験があります。中学3年の時、お母さんに買ってもらった自転車が立て続けに盗まれ、それを言い出せず、ついに人の自転車を盗んでしまった奥田さんは、警察署に呼ばれました。自分のことで母が厳しく叱られる姿を見て、自分が如何に悪いことをしたか痛感すると同時に、自分が如何に愛されているかにも気づいたそうです。

 イエスさまの十字架上での傷跡は、私たちに向かう深い愛と絆のしるし。裏切って心に傷を負うペトロに3度、「私を愛しているか」(参ヨハネ21・15~17)と尋ねたイエスさまは勿論、天の御父とも深い絆でつながっています。

 最近、身内の心配事で生き地獄を味わいました。人に相談し難い孤独の中、「お祈りしていますよ」という励ましは、傷が恵みに変わるような嬉しい言葉でした。祈り合う時、より一層、私たちは一人でなく、神と人につながり生かされている事実に気づくのだと思います。