2025年06月のコリーンのコーナー

神戸海星女子学院マリア幼稚園
豊かな自然を感じながら過ごします

新たな体験の学習、エクスポージャー ①

 「ヘーイ、フラン!これ見て!」父が興奮して母を大声で呼びます。母は豆腐売り場を曲がるところでした。父は遠く離れて、まだ魚売り場にいて、なんとも馴染みのないものに目を奪われていたのです。

 当時、私自身日本に来たばかりで、父の呼びかけに少し戸惑いました。近所のスーパーで180センチをこえる体格の父が大声で叫ぶものですから。私が目をやると、父は声を落としましたが、それでも自分の発見を母にささやいているのです。父が珍しいものを目にして喜んでいるのは明らかです。店員さんが近づくと、父の質問に答えているではないですか。

 食料の買い物など、新しい場所を訪れたときの計画に入れておくようなことではありません。両親が私の買い物についてきたのは、旅行者というよりも、親として日本を訪れ、ただ私の日々の生活を見たかったからなのです。

 他方で、私もそうですが、旅行者といえば、たいてい計画をたてて新しい都市を訪ねるものです。公園、ビーチ、山、お城、お寺、博物館などです。それもそのはず、旅の訪問はふつう短いのですから、私たちはその場所の最上のスポットでその日程を埋めるものです。ガイドブックや人々のブログなども、私たちが有意義に旅するのに一役買います。
 それでも、家にもどって何を持ち帰ったか見てみると、出発前にすでに目にしていたものと似たような沢山の写真やお土産だったりするのです。もちろん旅先で直に何かを目にするというインパクトは圧倒的です。それでも、多くのアトラクションをお勧めされてから旅に出ると、かえって実際の体験を狭めてしまうものです。

 自分の目で人々の生活を見る機会を、そう、「エクスポージャー」の機会を逃してしまうかもしれません。例えば、父が日本のスーパーでピクピク動いている魚が売られているさまを見たときのような興奮の機会を。

(この「エクスポージャー」なるものと私が初めて出会った時のことを次回お話します。)