2023年10月のコリーンのコーナー
=プロローグ=

紙芝居屋さん、ありがとう!

 「初めに、神は天地を創造された。」(創世記一章一節)
 「初めに言があった。」(ヨハネによる福音書一章一節)

 わたしの人生の「初めに」に相当する場面にも、やはり聖書の言葉があふれていて、自然に耳に入ってきていました。
 小さなころから日曜日のミサの聖書朗読や説教で聖書の物語を聴いて育ちました。

 アメリカ・ボストン郊外の公立学校に通っていたのですが、家でも地域でも人々が日常の会話のなかで、アクセサリーを身につけるかのように自然に聖書にふれて話すのを耳にしていました。高校でも、英文学の授業では聖書の中のなじみある人物や物語にふれている箇所について分析したりしました。こうした営みのすべてがわたしをかたちづくり支えてきました。
 それでも、わたしが本気で聖書に向き合い、その言葉に心から耳を傾けるようになったのは後のこと、大学の教室に足を踏み入れてからでした。

 大学の初めの年、一般教養の選択科目では「新約聖書入門」に登録しました。それを選んだのも、高校時代の親友と連帯しようという思いからでした。その親友の通う大学では宗教科目が必修でしたので、それじゃわたしもキリスト教関連の科目を履修しようということになりました。ところが、たまたま選んだその授業で、わたしの心に火がついたのです。

 その火がどのようなもので、火花が何処から飛んで来たものかはっきりとわかりません。ただ、日本で長年すごしたおかげで、ホッブズ教授が実に巧みな「紙芝居屋さん」のような資質を備えた人であり、みごとにわたしを聖書の物語に招き入れたということがわかったのです。

 授業中、わたしは間違いなく「観客」でしたが、「共演者」でもあり、さらには「批評家」でもあったのです。教室で投げかけられる問いに、物語をまったく別の視点から見るように、ことごとく問い直されたのでした。それまで本棚にしっかりとつなぎ留められていた神の偉大な物語大全が、ある日、未知なる可能性に開かれた生き生きとした読み物へと変わっていったのです。

 やがてわたしはその教室から歩みを進めていくことになります。
 ちょうど子どもが紙芝居屋さんから卒業してゆくように。
 目を見開き、耳をそばだて、身のまわりの物語をひとつも逃さぬようにして・・・・・・。

 それでは、ハジマリ、ハジマリ―! 

コリーン・ダルトン


今月から新しいコーナー「コリーンのコーナー」~(Colleen's Corner)が始まりました。
カトリック者として、母として、わかりやすい言葉で紡がれるこのコラムが 皆様にとって新しい視点発見になりますことを願い、お届けしてまいります。

筆者紹介 *コリーン・ダルトン(Colleen Dalton)*
アメリカ合衆国のボストンに生まれ、ボストン・カレッジ大学院を修了。
旧約聖書と応用言語学を研究。フィリピンで3年間大学と大学院で教える。
滞日26年、日本で大学教育に携わり、現在准教授を務める。
カトリック教会の教会報、「福音宣教」などにも寄稿。