2023年08月12日の聖書の言葉

8月13日 年間第19主日 マタイ14・22-33

 人々がパンを食べて満腹した後、イエスは弟子たちを強いて舟に乗せ、向こう岸へ先に行かせ、その間に群衆を解散させられた。群衆を解散させてから、祈るためにひとり山にお登りになった。夕方になっても、ただひとりそこにおられた。ところが、舟は既に陸から何スタディオンか離れており、逆風のために波に悩まされていた。夜が明けるころ、イエスは湖の上を歩いて弟子たちのところに行かれた。弟子たちは、イエスが湖上を歩いておられるのを見て、「幽霊だ」と言っておびえ、恐怖のあまり叫び声をあげた。イエスはすぐ彼らに話しかけられた。「安心しなさい。わたしだ。恐れることはない。」すると、ペトロが答えた。「主よ、あなたでしたら、わたしに命令して、水の上を歩いてそちらに行かせてください。」イエスが「来なさい」と言われたので、ペトロは舟から降りて水の上を歩き、イエスの方へ進んだ。しかし、強い風に気がついて怖くなり、沈みかけたので、「主よ、助けてください」と叫んだ。イエスはすぐに手を伸ばして捕まえ、「信仰の薄い者よ、なぜ疑ったのか」と言われた。そして、二人が舟に乗り込むと、風は静まった。舟の中にいた人たちは、「本当に、あなたは神の子です」と言ってイエスを拝んだ。

み言葉の分かち合い

み言葉の分かち合い

 「五つのパンと二匹の魚を分け与えて五千人を満腹にさせた奇跡」は四福音書すべてに記された唯一の奇跡です。この奇跡は、ガリラヤ湖北西のタブハという村で起こったとされており、「パンの奇跡の教会」が建てられています。

 人々がパンを食べて満腹した後、すぐ、イエスは「弟子たちを強いて舟に乗せ」「向こう岸へ先に行かせ」、ご自身は祈るために山へ登り、一人で過ごされました。「奇跡の後すぐ」ですから、弟子たちは夕方に舟に乗ることを強いられたことになります。そしてイエスが湖の上を歩いて登場されたのが「夜が明けるころ」と記されているので、弟子たちは一晩中、小舟の中で、強い風と大波に悩まされ続けたと想像できます。イエスに強いられて湖に放り出されてしまったのか?という不安の中、イエスが登場されます。しかしイエスと気づかずに「幽霊だ」とおびえ、叫び声を上げます。
 不安から解放されない弟子たちに向かって、イエスは、すぐ話しかけてくださったのです。「安心しなさい。わたしだ。恐れることはない」と。イエスは一歩ずつ近づいてくださいました。
 「安心しなさい。わたしだ。恐れることはない」。不安の中にあった弟子たちにとって、イエスの存在が助けです。イエスがいてくださることが救いであり、安心なのです。

 二千年後の現代を生きる私たちにとっても同じことが言えると思います。「わたしだ」は原文のギリシア語で「エゴー・エミー」、英語では"I am."(=わたしがいる)です。神がモーセに「わたしはある。あるという者だ」(出エジプト3・14)とご自身を示された力ある御言葉です。

 そしてペトロの登場です。水の上を歩いてイエスの所に行きたいというペトロの願いを聞き届けて「来なさい」と言ってくださいました。「信仰の薄い者よ、なぜ疑ったのか」。厳しいイエスの言葉に聞こえます。しかし「主よ、助けてください」と叫んだペトロを、まず「すぐに手を伸ばして捕まえて」くださっていることに注目したいと思います。ペトロのチャレンジを受け入れて、その歩みをしっかりと見守って下さっていたことがわかります。「信仰の薄い者よ、なぜ疑ったのか」は、励ましの言葉として受けとめたいと思います。
 私事ですが、孫がハイハイできるようになった頃のことです。スマホから、かわいい孫の動画が送られて来ました。保育園の階段を1段、2段と上って、母親の「すご~い!」の声にニコッと微笑んで、さらに1段。「下りれるの?」の声に気が付いたのか、手を伸ばして「ア~ン」と助けを求めるかわいい画像でした。子どもは親が見てくれているから、何かあったら必ず助けてくれると確信しているから、思い切ってチャレンジできるのです。不遜にも、孫の泣きべそ顔と、ペトロの「主よ、助けてください」が、かぶって見えてしまいました。

 「本当にあなたは神の子です」。マタイ福音書は弟子たちの信仰告白を伝えています。ペトロだけでなく、同船していた弟子たちにとって、忘れることのできない貴重な体験であったことがわかります。

*キーワード1:「舟」「湖」
 「舟」は私たち、「湖」はこの世という大海原を象徴しています。沖へ漕ぎだすと、試練、誘惑、困難という波や突風が襲いかかってきます。ペトロをはじめ弟子の数名は、このガリラヤ湖で漁をする漁師でした。荒れやすい気象に慣れていた彼らでしたが、風と波に翻弄されて進むことができなかったのです。

*キーワード2:ガリラヤ湖
 ガリラヤ湖畔は、イエスの弟子の召命や宣教の舞台となった所です。面積166㎢(霞ヶ浦とほぼ同じ)、南北20km、東西12 kmの湖です。ヨルダン渓谷が陥没してできた湖で、海抜-212mの谷底にあり、しばしば強風に見舞われます。「聖ペトロの魚」など、多くの魚が生息する淡水湖です。ローマ時代は「ティベリアス湖」、竪琴(ヘブライ語でキノール)の形に 似ていることから「ゲネレト湖」とも呼ばれています。

参考:(第一朗読:列王記上19・9a、11-13a)・(第二朗読:ローマ9・1-5)