第二回「ナザレ」
ガリラヤ湖の南西約20kmの山間にあるナザレの町は、イエスの時代には、人口三百名ほどが、主に自然の洞窟を住居として暮らしていた貧しい小さな村でした。発掘調査によって、この集落では農業が主な生活手段であったこともわかっています。
「イエスはお育ちになったナザレに来て、いつものとおり安息日に会堂に入り、聖書を朗読しようとしてお立ちになった」(ルカ福音書4章16節)。
そして預言者イザヤの書を朗読され「この聖書の言葉は今日実現した」と述べられました。
一方で「この人は大工の息子ではないか」といぶかしがった人々はイエスにつまずいた(マタイ福音書13章57節)と聖書は伝えています。
「受胎告知教会」
マリアが受胎告知を受けたとされる洞穴の上に、中近東で最大級の教会が建てられています。聖母マリアのイメージにふさわしい、気品のある美しい教会堂です。
地下聖堂の祭壇の奥に階段があり、受胎告知が行われたとされる洞穴に続きます。
受胎告知の場所が地下洞窟だったことには戸惑いを感じました。
アラ・アンジェリコの絵画では宮殿のような場所が描かれていますし、ダ・ヴィンチの作品には大理石のテーブルが登場します。大原美術館(岡山県)所蔵のエル・グレコ作「受胎告知」画の背景は、洞窟に見えなくもありませんが、皆様はどう思われるでしょう?
地上聖堂の内部や周囲には、世界各国から贈られたマリア様の絵画が飾られています。日本からのものは、長谷川路可(ろか)の作品「華の聖母子」が聖堂内部に飾られています。真珠がふんだんに使われた作品です。
「聖ヨセフ教会」
受胎告知教会の近くで、夫ヨセフの仕事場があったと伝わる地下洞窟の上に聖ヨセフ教会が建てられています。地下には礼拝堂があり、ぶどう酒を作っていたサイロも発見されています。
「マグダラの遺跡」 ナザレから30km離れたガリラヤ湖西岸のマグダラの街から、イエス時代のシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)跡が発掘されました。
「イエスはガリラヤ中を回って、諸会堂で教え、御国の福音を宣べ伝え、また、民衆のありとあらゆる病気や患いをいやされた」(マタイ福音書4章23節)
マグダラの会堂跡に立って、ここでイエスが人々に話されたかもしれないと考えると、特別の思いが沸きあがってきました。小さなナザレの村では大工の仕事はあまりなかったのではないでしょうか?マグダラの大きな遺跡を見ていると、イエスが、石造りの街建設や修理に携わっておられたのではないかとの想像が膨らんできました。
心のともしび運動 阿南孝也