中村哲さんを偲んで

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 中村哲さんは、35年にわたり、アフガニスタンにおいて現地の人たちに寄り添い、支援活動に取り組んでこられました。2019年12月4日に武装集団に銃撃されて亡くなるという悲報に、世界の人々が衝撃を受け、深い悲しみに包まれました。

 学生時代にバプティスト教会で受洗された中村哲さんは、1984年に「日本キリスト教海外医療協力会」(JOCS)からパキスタン北西部ペシャワールの病院に派遣されて、医師としてハンセン病患者の治療に当たったことが、生涯をかけた活動のスタートとなりました。旧ソ連の軍事介入によるアフガニスタン紛争の只中のことでした。

「医療だけでは限界がある」。アフガニスタンでは豊富な雪解け水を利用した農業が盛んでしたが、地球温暖化によって積雪量が激減し、全土で干ばつが進行してきました。病気の背景には慢性の食糧不足があるとの認識から、井戸を掘り、用水路を引いて農地を再生させ、大勢の人々の生活を支えることができました。武器に代わって農具を手にした若者たちは、武装勢力に加わることのない、平和な生活を得ることができたのです。

 「国益だ、正義の戦争だ軍隊の増派だのと、騒がしい世界とは無縁のところに平和に生きる道が備わってあるのだ」(中村 哲 著『希望の一滴』より)

 沼 愼二 牧師は「これこそ彼のクリスチャン魂であり、信仰の証しでしょう。真の『一粒の麦』となって国境を越え、イスラム文化圏の真っただ中で、多くの人々に仕え証しして生きた彼の内にキリストは生きて働かれたのです。」と記しています。
(日本キリスト教団出版局『信徒の友』、2021年8月号より)

 国際NGO「ペシャワール会」は、中村さんの医療活動を支援する目的で結成されました。中村さんは啓蒙や募金活動のために、日本各地での講演活動にも力を注がれました。京都での講演会には私も参加し、直接お話を伺う機会をいただきました。ひげと穏やかな笑顔が印象的でした。

 中村哲さんは「神が共におられる」という聖句は「聖書の神髄である」と話され、著書『天、共に在り』を執筆されています。苦しむ人と共にいて苦しみを担ってくださったイエス・キリストに倣った人生を生き抜かれた中村哲さんを敬愛してやみません。

 「見よ、おとめが身ごもって男の子を産む。その名はインマヌエルと呼ばれる。
  この名は、『神は我々と共におられる』という意味である」
 (マタイによる福音書1章23節)

心のともしび運動  阿南孝也

 *「ペシャワール会」は、中村哲さんが設立された「平和医療団・日本」(PMS)のアフガニスタンでの医療活動や灌漑水利等の総合的農村復興事業を支援しています。
 支援の輪が広がることを願っています。