「騎士」と「棋士」~加藤一二三さんの信仰~

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 加藤 一二三さんは、史上最年少14歳2か月でプロ将棋棋士(四段)となった藤井聡太竜王・名人(全八冠制覇おめでとうございます!)のデビュー戦の対局相手として、存在感を示しました。歳の差62歳の対局は話題となりました。自身も中学生棋士として数々の最年少記録を持ち、名人位を含む通算八つのタイトルを獲得しています。「ひふみん」の愛称で親しまれ、引退後の今も、執筆活動等で精力的に活躍中です。

 カトリック信者である加藤さんは、長年にわたる教会活動や社会への貢献が認められて、1986年に教皇庁から「聖シルベストロ教皇騎士団勲章」が授与されました。湾岸戦争勃発時には、「私は騎士なので、馬に乗って教皇様のもとに駆けつけなければなりません」と(冗談を?)言われたそうです。また「騎士」と「棋士」を掛けたジョークもお得意だと伺いました。

 著書『老いと勝負と信仰と』(ワニブックス)の冒頭部に、アビラの聖テレジアがチェスの名手であったことが紹介されています。『完徳の道』の中に「チェスではクィーンを用いると必ず勝てますが、信仰では謙虚がクィーンに当たります」などの聖テレジアの言葉があると知り、驚かされました。

 加藤さんは、地方での対局には、必ず聖書持参で臨んだそうです。また将棋の研究になぞらえて、キリスト教の古典や聖人伝の精読は、将棋の「定跡」研究に当たり、教皇メッセージからの学びは、「新しい戦術研究」に当たるとのお考えであることがわかりました。

 加藤さん(現在83歳)は、アブラハムが神の声に従って、75歳で新たな土地に向けて旅立ったことを紹介し、次のように述べています。「やるべきことが新たに見つかれば一からでも始めればいいのです。おそれない、ひるまないで真摯に進むこと、あとはまさに神の恩寵に身をゆだねることでしょう」、と。

 著作の末尾に、「キリスト教にご興味を持たれ、さらに深く知りたいとお感じになられたなら、お近くの教会へ。また将棋をはじめたいという方、年齢は関係ありません。将棋連盟などで初心者向け教室を開催していますので、ご遠慮なくお問い合わせください」と述べて、「騎士」と「棋士」の二刀流での勧誘を忘れない姿勢に、感心させられました。

 

 ✝️カトリック教会では、11月は「死者の月」として、亡くなった方々の永遠の安息を願ってお祈りします。すべての死者のために、皆さまと心あわせてお祈りしたいと思います。✝️

心のともしび運動 阿南孝也