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母のぬくもり

橋本 勲 神父

今日の心の糧イメージ

 母鶏のぬくもり、すなわちいのちを生み出す温度は38度だそうです。

 昼も夜も、雨の日も風の日も、3週間にわたって卵を抱き続け、ヒヨコといういのちをこの世に産み落とすのです。ただ単に抱き続けていればよいというのではありません。卵の表面に伝わるいのちの温度にムラがないように、少しずつ卵を回転させながら、温め続けるのです。

 そしてついにいのちの誕生です。母鶏はいのちを産み落とした大いなる誇りを携えてその褥を後にします。しかし、その姿は見る影もなくボロボロです。毛は抜け落ち、足はヨロヨロ、目もうつろ。

 これが母のぬくもりの誇り高き正体なのです。

 4世紀の頃、アウグスチヌスという名の聖人がいました。かれは若い頃放蕩の限りを尽くしたので、母モニカを悲しませました。

 しかしかれはついに回心し、神のもとにひざまずくことになります。

 しかしその原因は、単に悪い行いを止めて、まともな生活をし始めたという表面的なことではなかったようです。もっと深層の地殻変動がかれの奥深くで起こり、彼の中の真実のいのちを目覚めさせたのです。

 それを可能にしたのは、他ならぬ親鶏である母モニカのぬくもりでした。

 息子を責めることもなく、だれを恨むでもなく、3週間どころか、長い長い年月黙々とわが子を抱き続け、わが子の中の神の卵を孵化させようと、ボロボロになって、挑み続けたのでした。

 卵はみごとに孵化しました。

 「神よ、あなたはわたしをあなたに向けて創ってくださいました。ですからわたしはあなたのもとに憩うまで安らぎを得ません」。

 これが産み落とされた新生アウグスチヌスの大いなる産声でした。