父のぬくもり

古川 利雅 神父

今日の心の糧イメージ

 お母さんが夜なべをして、寒いだろうと思い、自分のために手袋を編んでくれた。手袋が田舎から届いて、囲炉裏の匂いがした。昔懐かしい歌の内容ですね。お母さんが自分のため、一生懸命編んでくれた姿を思い浮かべ、お母さんのぬくもりも感じたことでしょう。

 自分を大切に想ってくれる人、それはお母さんだけではなく、お父さんもおられますね。お父さんのぬくもりはどんなもの。

 ふと亡くなった父のことを想い浮かべてみました。

 父と言えば手作り料理の思い出。家族で食べる日曜の夕食に「茶碗蒸し」をお願いすると、殻付きの銀杏を炒って、硬い殻を割り、薄皮を剥き鶏肉等の具も用意し、時には銘々で食べる器で、また時には大きなガラスのボールで「茶碗蒸し」を作ってくれましたね。表面に細かい泡ができない様、「す」が立たない様にしながら、美味しい茶碗蒸しを作ってくれました。

 美味しくて、いつもペロッと平らげていた私たち。食べ終えて、茶碗蒸しの欠片がついた入れ物。時間が経つにつれて、入れ物はどんどん冷め、冷たくなっていくけれど、そこには美味しい茶碗蒸しだけでなく、暖かな父の心、父のぬくもりがある様に、今感じています。

 父は既に天に召されましたので、今はもうこの「茶碗蒸し」を食べることはできませんが、懐かしい「茶碗蒸し」を思い出すとき、そこにある、今もある、父の暖かなぬくもりを感じ、父の存在、神の御元にいる父を想うことができます。

 お父さんのぬくもり、皆さんにはどの様なものがあるでしょう。探してみると新たな発見があるかも知れませんね。私たちへの暖かな心、暖かな想い、ぬくもりを感じ、そのぬくもりに温められながら、新たな一日を歩んでゆきましょう。

父のぬくもり

湯川 千恵子

今日の心の糧イメージ

 私は父のぬくもりを知りません。私が満1歳の誕生日の15日前に病気で急に亡くなってしまったからです。しかし、今回、「父のぬくもり」というテーマから、8ヶ月くらいの赤ちゃんの私を抱いた父の写真を手にとって、しみじみ眺めました。

 父の腕の中で動き回る、やんちゃそうな私を見守っている父の優しい横顔、抱きかかえた大きな腕や胸から父の肌の暖かさを感じ、私をあやす父の声まで聞こえる気がして、胸が熱くなりました。私にも、父のぬくもりに包まれたこんな幸せなひとときがあったのだと。

 父亡き後、母が実家に帰り、隠居していた祖父の庇護の元で私は何不自由なく育ちました。しかし祖父が病気でもすると、とても不安でした。

 若い両親のいる友達がうらやましくて、そんな普通の家庭を持つことが私の夢となりました。

 結婚してからは夫に守られて、貧しいながらも、主婦として4人の子育てに没頭していました。

 5歳の長女をカトリックの幼稚園に入園させたことで、キリストの教えに触れ、天地万物を創られた神さまが、変わらぬ愛で私たち一人一人を温かく見守って下さっていることを知った時、私はどんなに嬉しかったかしれません。私の真の父、天の御父を見出したからです。それからは写真でしか知らない父や育ての親の祖父のためにも天の御父の祝福を祈るようになりました。

 もし父が元気でいたら、子供時代のあの淋しさ、心細さを感じなかったかもしれませんし、夫や子供たちとの平凡な家庭生活の幸せを、神さまや周りに感謝して大切にすることをしなかったかもしれません。私に弱く欠けたところがあったからこそ、それを限りなく満たしてくれる大きな恵みを受け入れることができたような気がします。


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