時のしるし

小川 靖忠 神父

今日の心の糧イメージ

 人生は「七転び八起だよ」と、その昔、じいちゃんが言っていたことを思いだします。「7回転んでも、8回起きるんだから、結局のところ、最後はまともになっているんだよな」と、付けくわえていたことも思い出します。

 これだけいろいろな、しかも物騒な出来事が次から次へと起きますと、それでも、まともな社会環境ができるものなのかと思ってしまいます。「八起」だから、最後は「まとも」になることを願っているんですが、・・。

 そこで思うことがあります。「雰囲気」という空気は、人の行動を変えてしまうほどの力があるんだなと。「○○ブーム」と言われる現象がそれにあたるのではないかと思います。それは、人の考え方、感じ方、日々の行動にも影響してきます。大げさな言い方をしますと、世の中の「雰囲気」を完全に変えてしまう 「しるし」になっています。「あの頃おかしくなったよね」とか、「だから今があるんだよね」とか、その時の雰囲気に流されてしまったのか、それとも、自らその流れを選択したのか分かりませんが、その時の、そうなる「しるし」があったのではないでしょうか。

 わたしたちの日常は、物事が起きてしまってから、実際は、その兆候が前もってあったのに、その原因が何なのかが分かります。

 ある日の読売新聞・四コマ漫画「コボちゃん」でのこと。

 おばあちゃんが眼鏡を頭にのっけて「メガネメガネ」と探し回っています。コボちゃん曰く「頭にのってるよ」。「あらやだ」。ミホちゃんが言います。「おばあちゃんがすっごくよくやるうっかりね」。

 わたしたちもうっかりしていると、「しるし」、(おばあちゃんのメガネ)を見失います。最後は起き上がるために、「しるし」を見極めましょう。

時のしるし

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

 或る有名な服飾デザイナーの話である。彼女は華やかに活躍しているように見えていたが、自身では行き詰まりを感じ、仕事を辞めたくなっていた。気がつけば、人のために服を作ってばかりで、自分は誰からも作ってもらったことがない。

 思いきって、パリのシャネルの店へ行き、自分のためにスーツをオーダーした。シャネルスーツは大変高価な贅沢品で、それだけでよい気分になれる。だが、一着のスーツのために何度も仮縫いに通ううち、彼女はつくづくと「ああ、私は作ってもらう人ではなく、作る人なんだなあ」と思わないではいられなかった。

 明るいしるしに照らされたように、その時から、彼女は世界に通用するデザイナーを目指して、本格的に勉強を始めたそうである。

 人生の転機に、「時のしるし」が現れることがある。もうこの道を進むのは無理だと思い、立ち止まって悩んでいる時、しるしは現れて、新しい道を示してくれる。それは尊敬している人の一言であったり、聖書の一行であったりするかもしれない。また、このデザイナーのように、自分自身の中に見つける場合もある。日々を真摯に生き、心を尽くして待つ私たちに、あらゆる形でしるしは姿を現すのだと思う。

 お嬢さんが外国人と結婚したことで、その国の言葉を習い、交流を深めて、自分たちの世界を広げたご両親もおられる。初めは、異なる文化が受け入れ難く、結婚にも反対したかったけれども、いや、自分たちの狭い生き方を改める時が来たのだ、と人生観を変える覚悟をされたそうである。きっと、この外国のお婿さんは、「時のしるし」の素晴らしい使者だったに違いない。


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