時のしるし

三宮 麻由子

今日の心の糧イメージ

 北海道の宮島沼は、渡り鳥のマガンが数万羽集まる中継地です。5月初めにシベリアから渡ってきてここで羽を休め、夏を過ごすため日本各地に散っていきます。秋には日本中からここに集まって、今度はシベリアに帰っていきます。これを北帰行と呼びます。マガンたちは、ここから一気に海を越えてロシアに行きます。

 私は貴重なご縁から、ここでマガンの渡りを春と秋に観察する機会をいただきました。

 俳句では「雁の竿」と呼ぶ通り、強い鳥が先頭に立って風を受け、ほかの鳥たちが列を作って付いていきます。竿になり鉤になりして飛んでいく前に、マガンたちはまずいっせいに沼を飛び立ちます。このとき、薄く丈夫な翼が、ハタハタ、パサパサと触れ合う音が重なってまっすぐに舞い上がり、微妙な風が起きます。私はこの音を羽の音柱と名付け、微妙な風を羽風と名づけました。

 何よりも感動したのは、数十羽ずつの群れがまるで何かの合図を受けたかのように、同時に飛び立っていくことでした。それも、群れ同士が衝突しないよう絶妙な合間を取って。飛び立った後は、誰も大地を振り返りません。見事な動きに、この鳥たちには神様が信号を出しているとしか思えませんでした。

 厳しい旅に向かう鳥たちの羽風を受けながら、私は、自分を含め、すべての生き物にはこのように「用意された時」があるのだと感じました。

 「そろそろ」から「今だ」に信号が変わると、私たちは新たな一歩を踏み出せるのでしょう。大切なのは、その信号を読み取る受信力と、行動に起こす決断力。

 何かを振り切って進むべきとき、私はマガンたちの潔さを思い出しながら頭を振り、前だけを見ようと決意を新たにするのです。

時のしるし

森田 直樹 神父

今日の心の糧イメージ

 忙しい毎日を過ごしている現代の私たちにとって、日々の予定はとても大切です。時間通りに公共交通機関が動いてくれないと、とても困りますし、自分が思い描いていた予定通りに物事が進まないと、イライラしたりしてしまいます。

 昨年、南の島に出かけた時、今までにない大きなトラブルが発生しました。出発する飛行機の予定が大幅に遅れたのです。その結果、空港近くのホテルで、もう1泊することになり、南の島の飛行機便を改めて予約しなおすはめになりました。想定外の少々手痛い出費にもなりました。

 その時、一瞬、頭の中が真っ白になりましたが、よくよく考えてみると、「当たり前のこととは、決して、当たり前ではないんだな」ということを痛感させられた瞬間でした。今まで、当然だと思いこんでいたことが、根底からひっくり返された思いでした。

 日々の生活においても、あれこれと予定を考えて行動していても、突然の出来事や突然の電話によって、急きょ、予定を変更しなければならないこともあります。

 これまた、当たり前が当たり前ではない、ということを突き付けられる瞬間です。そんな時、もしかすると、何らかのしるしをそこから読み取るべきなのかもしれません。

 予定通りにいかない時、思った通りに事が進まない時、私たちは、一度、立ち止まって、そのしるしの意味を考えるように招かれているのかもしれません。

 このような「時のしるし」は、思いもかけない時に、自分自身にふりかかってきます。イライラしてそのしるしを見過ごすのではなく、逆に、そのしるしをしっかり受け止めることができるように、日々心のゆとりをしっかり持ち続けていたいな、と私は望んでいます。


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