時のしるし

植村 高雄

今日の心の糧イメージ

 人生には迷いがあります。青春時代の迷いからはじまり、晩年の自分の死を巡る思索でも、楽天的な迷いもあり、暗いじめじめした感じの不安も湧き出します。

 明確な志でひたすら自分の夢に向かい、決然として飛び歩いた頃のことは、今も輝いていますが、混乱感と愛の孤独感から何の為に生きているのか不明なままの我が人生もあります。

 アフガニスタンやアフリカなどで、善意の国際的な支援機関で働く仲間もいますが、いつ終わるともない雰囲気の中で苦労しています。

 個人の生活での心の迷いの解決方法に戻りますが、シンプルに解決する方法はないものでしょうか?その解決手法の一つが「時のしるし」を識別する学習と言われています。

 全知全能で愛そのものである神様が、迷い苦しむ人々を無視するはずがありません。自分の身辺に起きる森羅万象には深い意味があり、時のしるしとして解釈する訓練が必要なようです。諸説ありますが、愛そのものである神様は、この場合どうなさるだろうか、と神の視点で思索する訓練があります。今までの自分流を大切にしつつも、この場合の自分の思考、感情、行動、勇気のありようについて、神様ならこの場合どうされるだろう、という視点だそうです。

 難しい問題ですが、視点を変えると世界が変わります。その結果、湧き出す感情が明るく元気に爽やかになるようなものでしたら、案外、本物の正しい選択かもしれません。

 神の視点で思索することは不可能ですが、大脳の中で思索する自由を人間は持っていますので、気楽に挑戦することは、自由意志をもつ人間の美しい試みかもしれません。その視点で思索して、身辺が愛と喜び、平和、寛容、友情が溢れたら、努力の甲斐があるようです。

時のしるし

崔 友本枝

今日の心の糧イメージ

 世界的な書道家、金澤翔子さんのお母様の講演を聞きました。

 翔子さんはダウン症のため、競争の世界に巻き込まれた経験がありません。それで、人と比較する気持ちもありません。心はいつも幸せでいっぱいです。翔子さんは他の人も幸せでなければ困るようで、いつも他の人を喜ばせたい、という気持ちだけをもっているそうです。ですから、翔子さんの行く所はみんながにこにこして幸せになるのです。

 小学4年の時に、学校が勧めた障がいのある子供の学校にお母様はすぐには通わせず、2人きりで般若心経を書いて過ごしました。

 まだ漢字を習っていない翔子さんがうまく書けないとお母様は強く叱ったそうです。すると涙をぽろぽろ流しましたが、決して、辛いとか、止めたいとは言いませんでした。書を書くと母親が喜ぶと感じていたからでした。休憩のたびに「ありがとうございました」と言い、終わるとミルクティーを入れてお母様をいたわりました。お母様はその優しさに胸を打たれたといいます。

 翔子さんはいま一人暮らしを始めました。いろいろなお店で買い物をしますが、シャッターの上げ下ろしが大変なご高齢の方が経営しているお店には、毎日お手伝いに行きます。誰にでも明るく声をかけて親しくかかわります。翔子さんは皆と一緒に生きているのです。彼女が来てから街は生き返りました。

 誰もが先のことを考えて不安と憂鬱に苦しんでいる現代。彼女の生き方に「時のしるし」を見ることができます。

 まず、幸せでいるためには人と競争や比較をしないこと。一緒に生きている人の喜びと平和を求めること。そんな人といると誰もがホッとして幸せを感じられます。これは私たちにいま最も必要な心の態度ではないでしょうか。


前の2件 1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11