以来、私のバスのマナーは良くなった。できるだけ、乗る際には運転手さんに「おはようございます」とか「こんばんは」と挨拶し、降りる時には「ありがとうございます」と感謝することにしている。また、同時に停車しているバスのそばを、猛スピードの自転車が通り過ぎることがあるので、お体の不自由な方とは手をつないで一緒に降りるようにしている。
ただ、電車ではどうかというと、なるべく座りたいと思い、周囲の状況を見ることを忘れてしまう。特に友人と一緒だったりすると、つい友人との席を確保しようと盗塁をするように走って席を取る。それを改めよう。友人と乗った時には静かに話そう。無意識のうちに特定の人を、じっと見る癖をやめよう。自分が怪我をしている時には別だが、優先席にはなるべく座らないようにしよう。携帯電話は電源を切って乗ろう。そして、あたりを見回して、座れるなら幸せと思うことにした。
こうして、遅すぎる気づきだが、マナーを守って爽やかに乗れるようになった。
バスと電車に乗る時の態度を改めたのは、私にとって人生の分岐点となった。なぜか私の人生は好転してきた。1人で突っ走るのではなく、一緒にすることを優先するようになったからかもしれない。
私は青空にぽっかり浮かんだ羊雲を見ているうちに、すっかり忘れていた夢を、突然、思い出しました。『アルプスの少女ハイジ』のような暮らしをしたい...。
「今からでも遅くないわよね」夫を必死で説得しました。
3年後、北海道、函館郊外の大沼に夫婦で移住しました。今はここで羊を飼って暮らしています。羊飼いの紀子というわけです。羊を飼うにはたくさんの人々の助けが必要です。羊の子供を分けてくれたOさん。飼い方を教えてくれたYさん。ヤギ牧場のAさん。肉の取り扱いについて教えてもらった豚農場のKさん。餌の牧草ロールを入れてもらうT牧場の方々。こちらで知り合った人々から私は紀子さんと呼ばれるようになりました。
我が家の羊から毛がたくさん取れました。その毛を利用して、お人形の作り方を教わりました。それを見た地元のご婦人たちが言いました。「私たちも作りたい」。
毎月、羊手芸の会を開いています。そこでも私は紀子さんと呼ばれています。紀子さんと呼ばれるたびになんだか嬉しい気持ちになります。
誰それの奥さんではなく、紀子さんと呼ばれるようになった、人生の分岐点は北海道移住だったのです。