年を重ねる

中井 俊已

今日の心の糧イメージ

年を重ねると、若い頃は良かったなと、いまの自分を悲観的に考えることがあるかもしれません。

けれども、年と共に様々な経験を重ねるにつれ、内面的にも外面的にも、以前より輝いていくことは可能ではないでしょうか。

映画『ローマの休日』『ティファニーで朝食を』などの主演女優オードリー・ヘップバーンは、高齢になるまで女優業を続けました。

引退後は、豪邸で静かに余生を送るのではなく、積極的に貧しい地域にボランティア活動に出かけていきました。

自分も貧しかった子どもの頃にボランティアに救われた経験から、恩返しをしたいと考えたからです。

アフリカ諸国を巡った彼女は、飢えや病でやせ細った子どもたちを優しい笑顔で抱擁したものです。

当然ながら、その頃の彼女の顔には『ローマの休日』の頃の若々しさはなく、深いシワが刻まれていました。しかし、その表情には不思議な魅力がありました。そのわけを彼女はこう語っていたそうです。

「確かに私の顔にはシワが増えました。でも私はこのシワの数だけ愛を知りました。だから若い頃の自分より、今の自分の顔のほうがずっと好きです」

高齢になった聖マザー・テレサの顔もシワだらけでした。そのシワだらけの微笑みを見て、心慰められ、元気づけられた人は、世界中にどれだけ多くいることでしょう。

また、晩年の聖ヨハネ・パウロ二世はパーキンソン病と闘いながら、公務を遂行されていました。その痛々しい姿を見て、十字架のキリストを連想した人も多いでしょう。

誰でも年を重ねると、体は老いていきます。病に苦しむこともあるでしょう。

けれども、歳月と共に愛は心と体に刻まれ、その人自身をより気高く魅力的にするのだと思います。

年を重ねる

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

70歳まであと1年になりました。晩年をどう過ごすべきか考えます。

これまでの私は、学んだり教えられたりして過ごしてきた自分探しの30年、3人の子育てと両親の介護そして様々な夢を追いかけてきた自己実現の40年でした。自分と家族のためだけに生きてきました。これからは人々のために年を重ねて生きたいと思うのです。

さて、私らしい社会貢献とは何でしょう。

6年前、私は横浜から北海道へ移住しました。動物を飼って暮らすのが夢だったからです。今では8頭の羊飼です。

羊を飼い始めてわかったことがあります。羊は戦後、日本中で飼われていました。その数なんと100万頭。それが現在、1万頭にまで減ってしまったのです。100万頭いた時代は、羊の毛刈り屋さんや、毛刈りした羊毛を染めて布地にしてくれる染め屋さんがいたそうです。その羊毛で学生服を作ったり、セーラー服を作ったりしたという話を近所の農家の方から聞きました。ところが、外国から安い羊毛が入るようになって、あっという間に羊は減ってしまったのです。

我が家の羊たちは、桜が咲く頃に毛刈りをしました。1頭当たり平均3キログラムの毛が取れます。今年は5頭から16キログラムの毛が取れました。

羊毛文化を再発見してもらおうと考えて、私は村の一角に「大沼羊文化研究所」を作りました。羊毛細工の先生も見つかりました。10名ほどの村人たちが月に一度集まり、羊毛細工や、編み物をしています。

羊の毛に触っていると、小さな子供ばかりでなく、大人も気持ちが落ち着くのです。日本でほとんど滅びてしまった羊毛の文化をもう一度見直してほしい。羊文化の普及が、70歳になった私のささやかな社会貢献ではないか、と思うこの頃です。


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