クリスマスに学ぶ

片柳 弘史 神父

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人間が幸せになるために何が必要かと問われたら、わたしは迷わず「家族の愛」と答える。有り余るほどの財産やきらびやかな地位を手に入れ、たくさんの人から尊敬されたとしても、家族から愛されない人は決して幸せになることができないからだ。身近にいて自分のことを隅々までよく知り、その上で、弱くて欠点だらけの自分をありのままに受け入れてくれる家族。その無条件の愛を実感したときにだけ、わたしたちは心の底からの幸せを味わうことができる。

イエス・キリストは貧しさの中で誕生した。生まれたばかりの幼子イエスは、家畜のよだれで汚れた小さな飼い葉桶に寝かされ、それをヨセフとマリアが見守っている。物質的な豊かさとはまったく無縁の誕生だが、そこには確かな幸せがある。

ヨセフは妻であるマリアを心の底から信頼し、マリアの身に起こったことをすべて受け入れている。マリアも夫ヨセフを心の底から信頼し、ヨセフに自分と子どものすべてを委ねている。そして2人の心には、神から授かった幼子イエスを、自分たちの命に代えても守り抜く覚悟がある。何も持っていなかったとしても、誰からも祝福されなかったとしても、この家族の心が幸せで満たされていたことは間違いがない。

家族は、必ずしも血のつながりを必要としない。イエスとヨセフの間に血のつながりがなかったことからも、それは明らかだ。血のつながりがなかったとしても、ありのままの弱くて欠点だらけの自分を、ありのままに受け入れてくれる人がいるなら、その人こそわたしたちの家族だ。わたしたちの幸せは、そんな家族を持てるかどうかにかかっている。

すべての人が自分の家族を見つけ出し、幸せなクリスマスを迎えることができるよう心から祈らずにいられない。

クリスマスに学ぶ

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

母に聞いたことがありました。

「結婚してから今までで、一番つらかったことはなあに」

母はすぐに答えました。

「それはね、お父さんが戦争に行ったことよ。幼かった子供2人を抱えて、1人でどうしようかと心細かったわ。空襲で爆弾が落とされると、2人の子供を抱きしめて逃げまわったの。あんなことは2度と起こってほしくないわ」

そんな体験があったせいでしょう。父も、母も家族揃って頂く食事というものをとても大切にしていました。特に私たち4人姉妹の誕生日には、家族揃って祝ってくれました。姉の誕生日には姉の好きなサバの味噌煮を、私の誕生日には、サツマイモで茶巾饅頭を作ってくれました。そんな母の心使いが嬉しくて、家族の誕生日が待ちどおしかったものです。

クリスマスの日になると、例年母はお祝いの食事を用意してくれました。父が頼んでおいたケーキも届きます。私の興奮は最高潮です。

私が小学4年のクリスマスイブのことでした。祖父が病で倒れ、父と母は、病院へ飛んでいきました。私たち姉妹だけが家に取り残されたのです。様々な御馳走と大きなケーキが用意されていました。

「仲良く食べなさい」父と母は言いました。しかし、夕食の時間になっても、姉妹だけでは食べる気持ちになりません。姉たちも妹も食べ始めようとは言いません。祖父の具合も心配です。いつも取り合って食べるケーキも手を付ける気になりません。

私は子供ながらに気が付きました。家族揃って祝うからこそクリスマスは楽しいんだ。家族がばらばらのクリスマスはなんと寂しいのだろう。クリスマスの夜は更けていきます。しかし、父と母は帰ってきません。こんな寂しいクリスマスイブは初めてのことです 夜の闇が深く、私たち姉妹を包むのでした。


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