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母の後ろ姿

橋本 勲 神父

今日の心の糧イメージ

もう20年も前に亡くなった母の後ろ姿はと問われて、まっ先に浮かんできたのが、漬物石を持ち上げる姿でした。

漬物石と言われても、現代っ子には分からないかもしれませんが、畑から獲れた大根を、寒風にさらした後、桶の中に漬けて、あの塩味の効いた沢庵が出来上がるのですが、その大根を上から押さえつけるのが、漬物石です。この石で押さえつけられて、大根独特の味と、加えた塩味が絶妙にまじりあって、沢庵の味を仕上げて行くのです。ですから、この石で押さえつけられなければ、沢庵にはなれないということになります。

沢庵づくりからヒントを得たのか、母は随分と自分の子供も押さえつけたものです。農家にとっては子供は貴重な労働力ですから、遊び盛りの子供の意思などお構いなしに、田畑へと駆り立てられたものです。

子育てはしつけが大事だと言われますが、しつけとは押しつけのことだと捉えていたようです。その押しつけによって、子供であるこの私という人間の独特の味がにじみ出てきたとすれば、それはそれで、人間沢庵、すなわち子育てに成功したということになるのですが、そこは意見が分かれるところでしょう。

昨今、体罰問題が盛んに論じられ、教育に体罰はあってはならないというのは正論です。が、体罰に似た激しいスキンシップはあり得るのではないかと思います。

かつての親は涙を流しながらわが子に手をあげたものです。それはもはやスキンシップの一種ではなかったのでしょうか。もちろん子供が納得していればの話ですが・・。

芋を桶に入れてゴリゴリと擦りながら洗うのも、母の得意技でした。

そしてその手で、8人の子供を、芋のように擦り合わせながら、育てたのでした。その手がまた岩のように節くれだっていました。