2015年08月14日の心の糧


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マリア様の役割

橋本 勲 神父

今日の心の糧イメージ 少々古い話になりますが、明治37年日露戦争が始まり、日本中に戦時ムードが広がる中、そのムードをかき消すかのように、いのちの叫びを挙げた一人の女性がいました。詩人与謝野晶子です。

彼女は旅順包囲軍に加わった弟への想いを「君死にたまふことなかれ」と題された詩に切々と綴っています。

「親は刃をにぎらせて、人を殺せと教えしや、人を殺して死ねよとて、24までを育てしや」

殺伐たる死の荒野に響いたいのちをいとおしむ母性の叫びでした。

鹿児島県知覧町に第二次世界大戦で特攻隊となって戦場に消えて行った方々を哀悼する記念館があります。

多くの方々がここを訪れて平和への想いを募らせて帰って行くのですが、必ずしも同じ想いではないようです。

日本のある総理大臣がここを訪れて感動の涙を流しました。よくぞ祖国日本のために身を犠牲にしてくれた。その勇気と自己犠牲に感動し、涙したというわけです。

マンガ「サザエさん」で有名な長谷川町子さんもここを訪れて涙を流しました。しかしその涙は感動の涙ではありませんでした。

洋々たる未来を持つ若者たちのいのちを、無残にも奪ってしまうような時代をつくってしまったことへの痛恨の涙でした。それはあの詩人の叫びと同様、死の荒野に流された母性のしたたりそのものでした。

戦後5年を経た1950年、カトリック教会は、戦争に明け暮れた20世紀前半を総括し、いのちを生み出し育む強力な母性を世界に向かって宣言しました。

これが聖母マリアの「被昇天」の教義宣言です。

体も魂もともに天に挙げられたというこの教義は、単にマリアの特権の宣布ではなく、この世界の底辺に響く、いのちをいとおしむすべての母性の叫びの、集約でもあります。これこそマリアさまの役割だからです。