入院中の出会い
末盛 千枝子
今年、コロナで1ヶ月も入院していました。身体中が痛くて、熱くてたまりませんでした。8月の酷暑の頃のことです。
でも感染に気付かず、用事があって友達に電話をしたのです。
すると彼女が「どうしたのその声!」と言って、車で飛んできてくれました。家に入ってくるなり「動けないの?」と言って、すぐに救急車を呼んでくれました。救急車といえば、昨年亡くなった長男のために、何回お願いしたことでしょう。まさか自分が乗せてもらうとは思いませんでした。息子がお世話になった病院に運んでもらい、馴染みの看護師さんがチェックしたとたん、「コロナがプラスですよ」と言うのです。一瞬、目の前が真っ暗になるようでした。
すぐにコロナ患者専用の厳重な個室に運ばれ、点滴の毎日でした。
そのうちに、息子ととても気が合っていたと、懐かしく話してくれる男性看護師が当番の時があって、とても嬉しく、ありがたかったです。
彼はそれから数日経った時に、私の書いた最新の本を持ってきて、サインしてください、と言うのです。本当に嬉しかった。遠藤周作さんに言われた「出会いの痕跡」という言葉をタイトルにした本です。
やがて厳しいリハビリの日々が始まりました。でも、友達が届けてくれた分厚い本に夢中になり、だいぶ元気になってきました。
そんな時、夜中の巡回に来てくれた若い女性看護師さんが、「実は私は保育園の時から、末盛さんの絵本が好きで、何冊も持っているんです。母には、こういう絵本はあなたにはわからないわよ、と言われたんですが、みんな大切に持っているんです」と言ってくれるではありませんか。まるで奇跡のようでした。
コロナは辛かったですが、入院で経験したあたたかな出会いでした。
*2023年12月ラジオ放送分です