第60課 弟子の派遣(マタイ 10・5~31)

 イエズス様は2年近く福音宣教をなさってから、ある日、弟子たちをガリラヤの付近へ宣教にお遣わしになりました。そして弟子たちが出発する前にイエズス様は彼らにいろいろの戒めを述べられました。

 「行くさきざきで、『天の国は近づいた』と宣べ伝えなさい。病人をいやし、死者を生き返らせ、ハンセン病の人を清くし、悪魔を追い出しなさい。ただで受けたのだから、ただで与えなさい」とイエズス様はおっしゃいました。

 また引き続いてイエズス様は弟子たちに、お金や余分の着物は持たず、はだしで、貧しい人々として出かけ、どの村や町に入っても歓迎する人を訪ね、その人の家に留まるようにお勧めになりました。「家に入ったら、平安を祈りなさい。もしその家がふさわしければ、あなたたちの祈る平安はその家に留まり、もしふさわしくなければ、平安はあなたたちにかえって来るであろう」とおっしゃったのです。

 なお、弟子たちが歓迎されるどころか、ご自分と同じように迫害を受けるところがあることを前もっておわかりになっていましたので、イエズス様は弟子たちに警告なさって、「へびのように賢く、鳩のようにすなおになりなさい」という有名なみ言葉を述べられました。

 「へびのように賢くなる」のは、他人に害を与えるためではなく自己防衛のためです。また、「鳩のようにすなおになる」というのは、人々に対してやさしい態度を取るということを意味します。イエズス様がこのみ言葉によって教えられたのは、人々に対しては、できるだけ親切にするだけではなく、それと同時に、人々の悪い業に注意すべきであるということだと思います。

 イエズス様は天国へお昇りになる前に、世の果てまで福音を宣べ伝えるように弟子たちにお命じになるつもりでしたが、ガリラヤでの短い宣教の旅は、それから後の長い宣教活動の準備と訓練のためでした。

 後の宣教活動を考えながらイエズス様は、どのような態度をもって宣教活動をすべきかを弟子たちに説明なさいました。ご自分のみ教えを伝える時、熱心に信じる人々が多くても、それと同時に反対する人も多いので、弟子たちが迫害されて福音のために苦しまなければならないことをイエズス様はご存じでしたから、特にそのことについてお話しになり、彼らを励まされました。

 弟子たちが福音を伝えることによって人々に救いへの道を教え、又、その活動をすることによって自分の永遠の救いが得られるのですから、反対者を恐れないで大胆に、み教えを屋根の上から宣べ伝えなさいとイエズス様はおっしゃいました。

 又、神様の御助けを信頼して迫害者を恐れる必要のないことを強調なさるために、イエズス様は次のような印象深いみ言葉をつけ加えられました。「体を殺しても、魂を殺すことのできない者どもを恐れることはない。むしろ、魂も体も地獄で滅ぼすことのできるお方を恐れなさい。すずめは二羽1アサリオンで売られているではないか。それにもかかわらず、その一羽も、あなたたちの父の許しがなければ、地に落ちることはない。あなたたちは、髪の毛までも皆、数えられている。だから、恐れることはない。あなたたちは多くのすずめよりももっと値うちのあるものである」

(つづく)