感謝のしるし

Smile of the Sun - 太陽のほほえみイメージ

 みさ子さんは近くの銀行で、六人いる窓口係の1人として働いていた。生まれつき親しみやすい性格で、どんな人にも暖かいほほえみを忘れなかった。

 このほほえみが、ある老人に特別な感動を与えたのである。ここ数年の間、預金額は少なかったが、毎朝、銀行にやってくる老人がいた。しかし、みさ子さんが銀行で働くようになるまで、彼は一度も快く迎えられたことがなかった。彼はいつも古ぼけた労働服を着、その臭いで商店街の魚市場の人だということがいっぺんにわかるくらいだった。銀行員がこのお客を好ましく思っていなかったことを、老人は彼女たちの冷たい態度で知っていた。

 ところが、みさ子さんが働くようになると、以前からの窓口係はその老人の預金を扱う必要がなくなってしまった。というのは、その老人は、毎朝みさ子さんの所に行くからである。

 そのうち、みさ子さんが結婚のため銀行をやめる日が訪れた。みさ子さんのお勤め最後の日にも老人はいつものようにやってきた。そして、いつものように預金をした。ところが、みさ子さんは、老人が帰った後で小さな封筒が忘れられているのに気付いた。

 すぐ追いかけたかったが、彼女は昼休みまで待ってから魚市場に出かけ、まず市場の主人に、老人について尋ねようと思った。

 驚いたことに、みさ子さんの探していた人は、その市場の主人だったのである。さらに驚いたことには、封筒を忘れたのではないと老人が言ったことである。「ほんのささやかな結婚祝いですよ。あなたがいつも銀行で親切にしてくださったお礼のしるしです」と説明してくれたのである。

 みさ子さんは涙ぐみ、この思いがけない結婚祝いに感謝した。彼女が封筒を開けると、2枚の真新しい1万円札が出てきたのである。