次郎のような友はいない

Smile of the Sun - 太陽のほほえみイメージ

 太郎の父は、大きな衣料品会社の社長をしていて裕福であった。彼の父は太郎をいつも誇りにし大事にしていた。
 ところが太郎は、身体が小さく、また弱々しかった。彼のにがてと言えば友だちを作ることであった。この弱い金持ちの息子である太郎を,近所の子供たちはからかったり、時にはぶったりした。
 しかし彼にもたった一人の友だちがいた。その名を次郎と言い、両親がなく、小学校の用務員をしているおじいさんとおばあさんに育てられていた。次郎は身体が大きく、ケンカにも強かった。わんぱく仲間が太郎をいじめていると、次郎は「僕を先になぐれ」といつも太郎をかばっていた。
 この2人の仲のよさを、太郎の両親も次郎の祖父母も好ましく思っていなかった。けれども2人の少年は外へ行って遊び、実に楽しく過ごしていた。
 だがある日のこと、次郎が肺炎にかかり、帰らぬ人となってしまったのである。
 会葬者も殆どない式場で、太郎はあふれる涙をおさえることができず、泣きながら友のひつぎの前で祈った。太郎は初めて得た親友を失ってしまったのである。
 太郎は、現在、衣料品会社の社長である。長年の間に、多くの地位ある人と知りあい、親しくつきあう人を得た。しかし彼は、次郎のような友には、二度と巡り会うことがなかったということである。