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私たちのお母さん

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

私たち夫婦が北海道の大沼へ移住して7年目となりました。住んでみて実感したことは、1人では生きていけないということ。助け合って、初めて暮らしていけるということです。冬の雪かき、大風で倒れた大木の処理、停電、断水など困った時には、助け合ってきました。

私たちより10年早く函館市内から移住したOさんは言います。

「大吹雪の時、玄関前に雪が積もってドアが開かなくなったの。困っていたら、近所の人が雪かきをしてくれて、車も掘り出してくれて、本当に助かったわ。夫が亡くなっても、みんなが助けてくれる。こんな村だから1人でも生きていける。」

村の活動に、「助け合い」という項目があります。これは、婦人会が中心になって行われている社会貢献活動です。歳を取って近所の人々との交流が少なくなったご婦人たちに集まってもらい、軽い体操をしたり、手芸をしたりしています。閉じこもりがちになるお年寄りに、こまめに声をかけてお食事会も開きます。

その中心になって世話をしているのは、Kさんです。Kさんは長く看護師をしていました。定年退職後、生まれ育った大沼で、村の活動に積極的にかかわるようになったのです。

「よく続けられるわね」私が感心すると、

「勤めていたときはできなかったから。それに嬉しいことがあったのよ」

Kさんが何度も声をかけてきたお年寄りが、一度も参加したことがないお食事会に初めて出てきてくれました。みんなに会えてとても嬉しそうでした。ところが1か月後、その方は急死されたのです。

「亡くなる前にみんなに逢わせてあげられて、本当に良かった」

いつも笑顔で活動するKさんは、私たちの村のお母さんだなあとしみじみ思うのです。