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私たちのお母さん

片柳 弘史 神父

今日の心の糧イメージ

2016年9月4日、バチカンでマザー・テレサの列聖式が行われた。インドの貧しい人々のために生涯を捧げ、「スラム街の聖女」と讃えられた彼女が、ついに教会の聖人の仲間入りをしたのだ。

「マザー」という称号には女子修道会の総長という意味もあるが、彼女は確かに、世界中の人々にとって「お母さん」だった。

マザーの元には、毎日、世界中からたくさんの人々がやって来た。マザーと出会った人が口を揃えて言ったのが、「わたしこそ、マザー・テレサから世界で一番愛されている」ということだった。不思議なことだが、たった5分立ち話をしただけという人でも、「わたしこそ、マザー・テレサから世界で一番愛されている」と言うのだ。

マザー本人はこう言っていた。「たくさんの人がわたしのところにやって来ますが、わたしにとっては、そのとき目の前にいる人がイエス・キリストであり、わたしのすべてです」。

確かにマザーは、やって来るすべての人を、自分にとって世界で一番大切な人として受け入れる人だった。その人と出会えたのがうれしくて仕方がないというような、心の底から湧き上がる笑顔。キラキラと輝くまなざし。相手の言葉を一言も漏らさず聞こうとする態度。そのすべてがわたしたちに、「あなたこそ、わたしにとって世界で一番大切な人」と無言のうちに語りかけていた。相手のために自分のすべてを差し出す人。相手をありのままに受け入れ、限りない愛で包み込む人。それがマザーだった。

自分を世界で一番大切にしてくれる人。それこそ、「お母さん」の定義と言ってもいいだろう。マザーと会ったことがある人は、彼女が世界中のすべての人の「お母さん」だったことを知っている。