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旅立ち

崔 友本枝

今日の心の糧イメージ

野生動物の生態をテレビで見ると感心します。動物は実に愛情深く、賢く子育てをします。小さな鳥でも敵が近づくと、母親がおとりになって、巣と反対の方に敵をおびき寄せたり、自分より大きな相手に飛びかかって撃退したりします。みじんもひるみません。命がけなのです。

こうしてヒナが成長し、旅立ちの「時」が来ると、親はこの「時」をしっかりと生かし、対応を間違えません。今度はお腹をすかせても、餌を与えないのです。親鳥は子供が一人で生きるすべを学ぶ時、手を離すわけです。小鳥は必死で餌を探し回って自立していきます。ライオンは怖い顔をして吠え立て、巣から我が子を追い出します。そうしなければ死を意味するからです。

私は折々に、この断固たる動物の姿を思い出すことがあります。動物の行動は本能によるものですが、神さまがプログラミングしたのですから、間違いがありません。

人間は、神さまから多くの自由を与えられ、行動を選ぶ範囲も広いのですが、かえって間違いも多いとも言えるでしょう。子供が旅立つ「時」が来ているのに、親が手を離さず、子の人生をつぶしてしまうことがあるのです。そのような親をもつ人がいたら、私は言いたくなります。「親の期待をかなぐり捨て、自分の人生を歩きなさい」と。自分の道を歩んだ人はたとえ失敗しても、晩年には親への感謝が生まれます。しかし、親に合わせ、選びたかった人生を歩めなければ、わだかまりをぬぐいきれないでしょう。失ったものの大きさを思い、事実を受け入れるために一生涯、格闘することになるかもしれません。

過ぎ去った時を取り戻すことはできないのですから。