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旅立ち

松浦 信行 神父

今日の心の糧イメージ

それは、神父になりたての頃、ある保育園の夏祭りの出来事でした。私は、園長先生から人手が足りないからと、シスターの経営する老人ホームや病院などの複合施設合同の夏祭りに、保育園の2人の子供を連れていく途中だったのです。

保育園から夏祭りの会場までは、すぐ近くなのですが、私は、道の途中ですぐ横に深い川が流れていたのが気になっていました。子供たちは、夏祭りに行けると元気にはしゃいでいましたが、私のほうは子供たちが誤って川に落ちはしないかと心配でした。

それで、私はしっかりと子供たちの手を両手に握って歩いていました。ところが、いくら握っていても、子供たちのほうは私の手を引き離したくて、あっちへこっちへと暴れ、私のほうが振り回されているといった感じでした。

その時です、私の哀れな姿を見ていたのでしょうか、1人の年老いたシスターがすーと寄ってきて、こう言ったのです。「神父さん、子供の面倒を見たことがないね。こんな時は、手を放してやりなさい。子供でも危険は知っているから、川には落ちはしないよ。手を放して、ちょっと後ろのほうに離れて見てるだけにするのよ。」

経験豊かなシスターが言うのだからと、恐る恐る手を放してみました。すると、子供たちはさっきの騒ぎは嘘のように、前に向かって自分でしっかりと歩き始めたのです。

「ほらね!固く握れば握るほど、子供は暴れるものよ。わかった?」そういって、そのシスターはさっと前へ歩いていきました。それから私は、子供たちの後ろで、シスターから言われた通り気を付けながら見守っていたのでした。子供たちはのびのびと夏祭りを味わっていました。