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心を開く

土屋 至

今日の心の糧イメージ

認知症の人の話をどう聴くかという方法を学ぶ傾聴講座に出た。

認知症の症状の一つに、"ものとられ妄想"をもつことがある。

たとえば「財布をとられた。嫁が盗んだにちがいない」という被害妄想である。こういう妄想をもっている人の話をどう聴くのか、というような訓練をロールプレイしながら学んだ。

ふつうはこういう場合「それは妄想だ。そんなことはあり得ない」と説得しようとする。そして多くの場合、言い争いになってしまい、認知症の症状をますます進めてしまうことになりかねない。

この傾聴講座で学んだ方法は「財布が見つからなかったらお困りですね。いつもどこにおいておくのですか?」という受け答えから始める。

つまり、相手の気持ち、この場合には財布をなくして困っているという気持ちを受容して共感するところから始める。それをしない。で、説得、説教、批判、否定するとその人はますます心を閉ざしてしまう。

この講座をうけて私が教師をしていたときのことを思い出した。成績が不振で進級が危ぶまれる生徒を呼び出して面接をしたときのことである。こういうとき、下を向いて黙っている生徒に「しっかりやらないと単位を落とすぞ」と脅したり、何とかがんばらせようと説教をしてきた。これではますます生徒は心を閉ざすだけであったことに今更ながら気づいてしまった。

このときにまずすべきことは、生徒の気持ちの受容、共感であったのだ。つまり成績が悪くて生徒は苦しみ、進級できないのではないかと不安でいっぱいなはずである。その苦しみや不安な気持ちを受けとめて共感することこそまず最初にすべきことであったのだ。