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心を開く

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

東京都心にある社宅に住んでいたころのことです。家の中があまりに殺風景なので観葉植物を買ってきました。香港カポックという名前の鉢植えです。人間の背丈ほどあります。お店の人から、乾燥に強い植物なので、水を上げすぎないように。しかし、寒さには弱いので、冬は家の中に入れるようにと言われました。

〈育てるのは簡単そうだわ。〉

リビングの真ん中の目立つところに置きました。鉢の土が乾いてくると、たっぷり水をあげました。ところが、1か月、2か月と経つうちに、だんだん元気がなくなっていくのです。〈水のやり過ぎかしら〉水を少なくすると、葉がしおれてしまいます。葉の色つやが悪くなる一方なのです。どうやら体調不良は水だけの問題ではないようです。私は途方に暮れてしまいました。

私は人間と植物の垣根を超えて、自分の心を開いて命の対話を試みました。

「ねえ、カポックさん。今、何が一番欲しいの。水なの。肥料なの。それとも・・・。」

私はカポックのそばに行き、カポックの気持ちになって周りを見渡してみました。リビングの暗い天井、冷たい板の間。遠くの縁側には光があふれていましたが、ここまではさしてきません。閉め切った空間なので縁側から入ってくる風も届きません。人には見られるけれど、自然からは取り残されています。

〈私が欲しいのは、太陽の光、そして風〉観葉植物の声が聞こえてきました。私はハッと気が付きました。

「つらい思いをさせてごめんなさいね。あなたには、太陽の光と外の風が必要だったのね」

私はすぐに植木鉢を縁側に移しました。そして、太陽と風がよく当たるようにしたのです。それからです。香港カポックは元気を取り戻しました。

心を開いて接したら、観葉植物の心と対話できたのです。