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新しいいのち

服部 剛

今日の心の糧イメージ

人生には幾度か、将来の方向を決定づける出逢いがあります。私が詩人を志す道を真剣に考え始めた青年の頃、カトリック哲学者の小野寺功先生と知り合い、時折喫茶店で語らうようになりました。先生の深い信仰と哲学の話はやがて、私の道標となっていきました。

小野寺先生との出逢いから10年の時を経て昨年、私は先生が所属するカトリック中和田教会でささやかな講演会を行いました。タイトルは『我が家に天使がやってきた』。前半、私は息子の周がダウン症の告知を受けた時、一度は絶望した私と妻の心の暗闇に微かな光が射すまでの話と詩の朗読をしました。そして後半は、先生が昨年出された著作の紹介と、その出版祝いをした際のエピソードを語りました。

祝いの席で、静かな和室に腰を下ろし、互いの盃を重ねながら、私は胸に沁み入る先生の言葉を聴きました。

「イエスは十字架にかけられる前夜、最後の晩餐で弟子達に〈互いに愛しあいなさい〉というメッセージを伝えました。その〈互いに〉という感覚で心から生きる時、日々の家庭の中で、あるいは学校や職場において、人と人との間には復活したイエスの霊である〈聖霊の風〉は吹くのです。イエスが〈私の死後、あなた方に聖霊を送る〉と約束したその霊は、ギリシア語でプネウマと言い、一人ひとりの魂に吹き込まれている、神様の息吹という意味でもあります」。

先生が長年思索された聖霊の核心を講演で私が語ると、聴衆の皆様は深く頷いていました。

その昔、松尾芭蕉が『おくのほそ道』で〈漂泊の風に吹かれて〉と書きましたが、その風は私達の日々の場面でも囁いています。その密かな促しに応じて生きる時、人は〈目には見えない復活のイエス〉と共に、信仰の歓びを生きることになるのでしょう。